星野源『いのちの車窓から2』感想・レビュー ~しなかやに生きる「いのち」のエッセイ~

『いのちの車窓から2』

 今回は、星野源著『いのちの車窓から2』を紹介します。

 源さんのやわらかで、独創的なセンスを垣間見ることができます。

『いのちの車窓から2』感想・レビュー

 序盤から、ただのカーテンをロングスカートを穿いたダンサーと捉えるセンスが光ります。

 心がしなやかで柔らかな人だと感じました。

 源さんの曲やエッセイやお芝居は未来の誰かと確実につながっていて、誰かを笑顔にし、誰かを救っているのだと思うし、その優しい影響力に感動。

 「イーッとなった」

 そうか。才能に溢れているように見える源さんも、いろいろなことに追われ、様々な思惑や視線を感じ、「イーッ」となるのか、源さんも人間なんだ、と少しほっとしたり。

 でも、苦しんでいる胸の内を吐露したエッセイを読んでいると、苦しいことや嫌な思いをすることが少しでもなくなればいいのに、と思います。

 有名であるが故の苦しみとか。

 悩んだり、苦しんだり、つらい日々が続くこともありながら、どうにか乗り越えていく。しんどいコンディションも受け入れていく。受け入れて堂々とその気分を認めていい、その姿はかっこ悪くてもそれでもいいと自分にも他者にも言える強さが源さんにはある。

 「生きるのは辛い」と言ってくれることで救われた人は多いのではないかな。

 未来や自由はある程度自分で決められるし、どう生きたいか、どうありたいかという人生の行先を決めて、自分の足で歩いていくことは辛いこともあるだろうし、楽ではない。楽ではないけれど、きっと楽しい。

 2020年の大変だった時期に皆のことを考え、少しでも笑顔になれるように、楽しくなれるようにと願いを込めて作った楽曲の話は胸がジンとあたたかくなりました。

 源さんがどうありたいのかを考えた結果なのかなと思います。

 めまぐるしく変わる世の中の価値観に対して、頑なにならずに柔軟に自分の価値観やあり方もアップデートして生きていこうとするしなやかさが印象的でした。

 そう心から伝えてくれる、まさに「いのち」のエッセイ。

こんな人におすすめ

  • 生き方を考えている、迷っている人
  • 星野源さんが好きな人
  • まっすぐで飾らない言葉で綴られた文章が好きな人

まとめ

 「読んでよかったな」と心からじんわりと思えるエッセイでした。

 それは、源さんが人生、いのちと真剣に向き合い飾らない言葉でまっすぐに綴ってくれているからだと思います。

 「生きる」ということは辛いけど楽しい。

 しんどい時期の話もしてくれた上で、「生きる」ということについて発信してくれているので、優しくも説得力があります。

 私はこのエッセイを読んで救われたし、これからもつらいことに直面したときに、源さんの言葉の数々を思い出すでしょう。

森岡督行『ショートケーキを許す』感想・レビュー ~許すとは愛すること~

『ショートケーキを許す』

 今回の記事では、森岡督行著『ショートケーキを許す』を紹介します。

 ショートケーキへの深い愛情を感じる、繊細で熱いエッセイです。

『ショートケーキを許す』感想・レビュー

 タイトルを見たとき、最初はショートケーキが苦手な人のエッセイなのかと思いました。

 ショートケーキが苦手で、何かのきっかけでショートケーキが好きになった人なのかと思ったのです。

 ところがどっこい、森岡さん、ショートケーキ大好きな人でした。

 日本各地の美味しいショートケーキを紹介してくれています。

 併せて、ショートケーキにまつわる思い出やエピソードも。

 ショートケーキの魅力や、その美味しさをより一層味わうための食べ方を教えてくれます。

 一口にショートケーキと言っても、お店によってその姿や美味しさはさまざま。

 その個性を繊細に伝えてくれるので、どのお店のショートケーキもなんだかかわいらしく見えてきます。

 ショートケーキが大好きな人でなくても、思わずショートケーキを食べるためにお店に行きたくなるでしょう。

 ショートケーキへの愛に溢れた表現は繊細でありながら、大胆で独創的。

 本当に心からショートケーキが大好きでなければこの表現は出来ないだろう、と思うような文章がきらきらと宝箱の中のように輝いています。

 こんなに愛を込めた文章を読んでいると、ショートケーキへの見方が変わります。

こんな人におすすめ

  • スイーツが好きな人
  • 何かをとても愛している人
  • 独創的なエッセイを読みたい人

まとめ

 「許す」ってどういうことなんだ?と思っていたら、「許す」ということは「愛する」ということだとこのエッセイで教わりました。

 数あるケーキの一つだとしか認識していなかったショートケーキが何だか特別な、お姫様のような存在に思えてきます。

 何かを徹底的に「愛する」ということは、簡単には出来ないですが、だからこそ、何かを徹底的に「愛している」人は一層輝いていて、美しいのでしょう。

 その熱が、一見「変」に思えるとしても。

 今度、ショートケーキを食べに行こう。

小原晩『これが生活なのかしらん』感想・レビュー ~つらいよりは楽しい方がいい~

『これが生活なのかしらん』

 今回は、小原晩さんの『これが生活なのかしらん』を紹介します。

 生活ってなんだろう、と考えるとともに、人生を肯定するきっかけとなった一冊です。

『これが生活なのかしらん』感想・レビュー

 小原さんの生活を綴ったエッセイ。

 一人暮らしのときもあれば、三人暮らしのときもあり、実家で暮らしていた時期から、家を出たい一心で入った寮での生活まで。

 何気ない生活の一コマに実は隠れている小さな特別。

 まるで絵本「ミッケ!」みたいに。

 寮での生活のページはめくるたびに胸がきゅっとなります。

 三人暮らしの時期は、何だかほっこり和気あいあいとしていて、誰かと一緒に暮らす楽しみが優しく描写されています。

 きっと、この一冊に書かれていない苦労もあるのだろうけど。

 この本を読んで思ったのは、「生活は楽しくていい」「生活は平和でいい」ということ。

 つらいこともたまには人生のスパイスになるのかもしれない。

 けれど、それはたまにでいい。

 「つらい」を人生の主成分にしなきゃいけないことはない。

 そう思うのです。

 もし、小原さんに「これが生活なのかしらん」と聞かれたら……。

 実際にはそんなことないのですが。

 でも、もしそう聞かれたら、私は、「楽しいなら、それが生活でいいのです」とまっすぐ肯定したい。

 胸がきゅっとなってしまうような時期も、安心できる人との出会いも、恋人との日々も、なんだか不思議な優しいような淡々としているようなエピソードに変えて語れるのは小原さんの魔法。

 その魔法にかけられて、読み終わったときには一瞬ボウッとしてしまいました。

 そうか、「これが生活なのかもしれない」と。

 自分が今送っている生活も、小原さんの生活も、「これが生活なんだ」と納得して肯定できる気がしたのです。

 生活は、嬉しいこと、愉しいことだけじゃなくて、理不尽やままならないことに襲われることもある。

 でも生きている限り「生活」は続く。

 そんなとき「これが生活なのかしらん」と一歩引いた目で自分を見つめ、「これが生活なんだ」と自分の人生を肯定できるか。

 この本は今日も問いかけてくるのです。

こんな人におすすめ

  • 自分の生活、これでいいのかなと思っている人
  • ライトなエッセイを読みたい人
  • 不思議な感覚を味わいたい人

まとめ

 「人生とは」という問いはよく見かけます。

 一見難しそうなこの問いも、突き詰めていくと、「生活とは」という身近な問いに着地するのではないでしょうか。

 生活を肯定することは人生を肯定すること。

 逆を言えば、肯定できるような生活を送るという視点も大事なのではないか。

 不思議な日々を淡々と描いているエッセイなのに、なぜか気付きも多い、魔法にかけられたようになる一冊でした。

くどうれいん『日記の練習』感想・レビュー ~「生きている」という感じ~

『日記の練習』

 今回は、くどうれいん著『日記の練習』を紹介します。

 日記を通して、「生きる」ということを感じさせてくれるエッセイでした。

 

『日記の練習』感想・レビュー

 読んだ直後に、くどうさんの感情の振れ幅の大きさに驚きました。

 よく感動し、よく怒り、よくめげる。

 みずみずしい感性の時もあれば、ざらざらした気持ちの時もある。

 面倒くさいな、この人、と思いながらも、生きることって大体が面倒くさいことの連続なのだから、くどうさんはまさに「生きてる」という感じがします。

 私が仮に、くどうさんと友達になれるかと考えたら、たぶんなれないでしょう。

 (そりゃそうだ、という現実は一旦おくとして。)

 けど、どうしてか、嫌いにはなれないのです。

 それどころか、きっと無理だろうけれど、一度友達になるチャレンジをしてみたいと思ってしまうのです。

 そこがくどうさんの文章の魅力なのかもしれません。

 言葉の力を知っている、言葉の力を信じている人が発する言葉は力強く、ぴかぴかと輝いています。

 その輝きが眩しくて、時に妬ましくもなる。

 でも、世界に、ぴかぴかと輝く言葉を発する人が一人もいなくなってしまったら、世界は退屈で寂しいものになるのでしょう。

 だから、私は、くどうさんに、れいんさんに、ずっと輝いていてほしい。

 何か賞を取れとか、新刊を早く出せとか、そういった話ではなく、ただ、言葉の力を心の底から知った人として、書き続けていてほしいのです。

こんな人におすすめ

  • 日記が続かないなと悩んでいる人
  • 日々の生活を記したエッセイをのんびり味わいたい人
  • くどうれいんさんが好きな人

まとめ

 日記が続いたことがなく、何度も始めては挫折してきた人間なので、「日記の練習」という魅力的なタイトルに惹かれてしまいました。

 結果として、日記はどう書いたらいいとか、どうしたら続けられるかとかは、学ぶことは出来ませんでしたが、くどうさんの日記を通して、「生きる」ということをもう一度見つめ直してみよう、そう思いました。

平野紗季子『ショートケーキは背中から』感想・レビュー ~あなたの好きな味はなんですか~

『ショートケーキは背中から』

 今回は、平野紗季子著『ショートケーキは背中から』を紹介します。

 食べ物への重いほどの愛が乗ったパンチがどんどん繰り出されるエッセイです。

『ショートケーキは背中から』感想・レビュー

 食べ物やお店を語る言葉は繊細なのに、それ以外のことを語る言葉はざっくりしていて、時には意味不明。

 その対比に眩暈がしそうになるけれど、そこが平野さんの文章の魅力であり、この『ショートケーキは背中から』の愉しさなんだと思います。

 言葉の一つ一つには、平野さんの、食べることへの愛がこれでもかというほどに乗っていて、言葉が紡ぎだされるたびに、打ちのめされる。

 ジャブ、ジャブ、ボディ、アッパーからのストレート。

 ひたすら食への愛で殴られ続けているのに、平野さんの文章に疲れるどころか、どんどん引き込まれている自分もいるのが不思議な気持ちに。

 平野さんがどんどんいとおしい存在に。

 続けざまに繰り出されるパンチのすべてに愛がこもっているから、何だかあたたかい気持ちにもなるし、お腹も満たされるような気がしてきます。

 食を大切にするということは、生きることを大切にするのと同じことなんだ、と気付かせてくれました。

 ソファやベッドでごろごろしながら読むのもいいけれど、ここは紅茶を淹れて、きちんと椅子に座って読みたい。

 姿勢を正しながら、時に繊細で時に大味な言葉たちに殴られたい。

 姿勢を正していないと、そのパワーあふれるパンチに負けてしまうから。

こんな人におすすめ

  • 食べることが好きな人
  • 食に特別な思い出を持っている人
  • 言葉の「繊細」と「ざっくり」のギャップを楽しみたい人

まとめ

 味の表現は繊細で、お店を語るときは愛に満ちた言葉なのに、旅館の大浴場は「でか浴場」。

 一言で言うと、「何これ」な平野さんの食エッセイ。

 でもそのギャップが眩しくて、愉しい。

 この本に食感があるとしたら、「ザクザク」。

 クランブルがたくさん入っていて、一口食べることに、頭の中で「ザクザク」と咀嚼音が反響して、あごに伝わる振動が「生きてる」と思わせてくれるのです。

村上春樹『ラオスにいったい何があるというんですか?』あらすじ・感想・レビュー ~土の力~

ラオスにいったい何があるというんですか?』

 今回は、村上春樹著『ラオスにいったい何があるというんですか?』を紹介します。

 世界各地を巡った紀行文集です。

ラオスにいったい何があるというんですか?』あらすじ

 『ラオスにいったい何があるというんですか?』は、村上さんが世界各地を旅したときに書いた文章を1冊にまとめた本です。

 「ラオスにいったい何があるというんですか?」という問いは、実は村上春樹さんから発せられたものではなく、ラオスに向かう村上さんにベトナムの人が発した問い。

 世界各地で村上さんは何を見て、何を感じたのでしょうか?

ラオスにいったい何があるというんですか?』感想・レビュー

 長いし、結構挑戦的なタイトルだったので思わず手に取って、迷わず購入したのを覚えています。

 アメリカのボストンやニューヨークだけでなく、過去に数年間暮らしていたギリシャやイタリアまで、世界各地を訪れた村上さんが見たこと、感じたことを言葉にしてくれています。

 アイスランドフィンランドにまで足を伸ばしていたとは驚きのような、でも村上さんならどこにいてもおかしくないような……。

 アイスランドかぁ、どんなところなんだろうと想像がいまいちつかなかったので、村上さんの紀行文を楽しく読むことができました。

 行く先にも、人々の生活があり、土地の力のようなものが働いて文化が作られています。

 旅とは何だろう、何を目にすることができるのだろう、と考えさせられました。

こんな人におすすめ

  • 手軽に村上春樹の文章を味わいたい人
  • 旅行が好きな人
  • エッセイが好きな人

まとめ

 村上春樹著『ラオスにいったい何があるというんですか?』を紹介しました。

 旅をしなければ分からない、それが異国の文化であり生活です。

 それらに触れて、村上さんが思ったことや思い出を率直に語ってくれている1冊なので、何だか旅に出たくなります。

 夜にソファでのんびりお茶を飲みながら読むのにぴったり。

 村上さんはお酒も飲めるので、合わせて一緒にお酒を少し楽しんでもいいかもしれませんね。

三浦しをん『のっけから失礼します』あらすじ・感想・レビュー ~日常にもきらめきを~

『のっけから失礼します』

 今回は、三浦しをん『のっけから失礼します』を紹介します。

 ありふれた日常を綴っているのに、なぜか抱腹絶倒エピソードになってしまうしをんさんの世界はすごい!

 そう感じさせられる1冊です。

『のっけから失礼します』あらすじ

 しをんさんの『のっけから失礼します』は、女性向け雑誌『BAILA』の巻頭に連載されたエッセイをまとめた書籍です。

 しをんさんはご自身のエッセイを「アホエッセイ」と書いていて、『BAILA』に日常の生活感丸出しのエッセイを掲載して大丈夫か、と気を揉んでいたが、連載が続いたということは、きっと『BAILA』の読者にもウケたのでしょう。

 しをんさんが書いているのは、しをんさんの日常やご家族のこと。

 要するに、ありふれた日常を綴っている。

 なのに、どうしてしをんさんが書くと、こんなに爆笑エッセイになるのだろう。

 公共交通機関や図書館で読むと、笑ってしまって他の人から怪しまれるので注意が必要です。

『のっけから失礼します』感想・レビュー

 日常がこんなに爆笑に溢れることってあるんだ、というのが感想です。

 それはきっと、しをんさんが特別なのではなく、しをんさんが物事の面白い側面や、明るい側面を見るのが得意な人だからなのだと思います。

 日常に潜む面白いことを発見するだけでなく、それを、思わず笑ってしまうような言葉で綴るしをんさんの手腕に、「え?」と思いながらもどんどん引き込まれていきます。

 ただ「感動した」という言葉で表現が済んでしまいそうなところを、「「きらめき貯蔵袋」が破ける」という、一瞬読者が「ん?」となる言葉で表現。

 確かに、いわゆる「推し」のまばゆいばかりの笑顔やオーラを浴びたら、それはきらめきを大量に浴びているし、それに対する「きらめき貯蔵袋」は破裂してしまう。

 しをんさんにしか書けないユニークな言葉で読者を立ち止まらせ、笑いの渦に巻き込むのです。

 好きなものにまっすぐ正直なエピソードは輝くしをんさんの表情を想像すると、微笑ましくなるし、仕事が遅れたり自堕落なエピソードは「分かる」と共感したくなるし、そのどちらにも明るい笑いがあって、あっけらかんとしているのが最大の魅力。

 この1冊でひとしきり笑った後は、何だか「よし、頑張るか」と思えて日常に戻れるからこれまた不思議。

 元気の出る1冊です。 

こんな人におすすめ

  • 毎日が同じことの繰り返しでつまらない人
  • 笑いたい人
  • ユニークな言葉選びを味わいたい人

まとめ

 三浦しをん著『のっけから失礼します』は、日常を楽しく生きるヒントがあるような気がしてくるエッセイです。

 書かれていることは確かに何だか「アホエッセイ」なのですが、そこには日常を笑顔に変える、しをんさんの人柄がちりばめられています。

 元気が出てきそうな明るい黄色い装丁が目印。

 面白さゆえに、読む場所には注意が必要ですが、三浦しをんさんの世界に飛び込むにはぴったりのエッセイです。